スポーツドリンクを手作りすると、糖と塩の比率を自分の体調に合わせて微調整でき、甘さも好みに寄せられます。本稿では目的別の比率、1Lあたりの分量、吸収の仕組み、衛生と保存、子どもや持病への配慮までを整理し、台所で再現できる形に落とし込みます。
- 基本は糖質4〜8%と食塩0.5〜1.5g/Lの範囲で調整
- 暑熱や長時間はやや濃いナトリウム、短時間は薄め
- 酸味は飲み続けやすさと胃の負担軽減に寄与
- 保存は当日中が原則。容器衛生で味と安全が変わる
- 子どもや減塩中は濃度と量を必ず下げて運用
スポーツドリンクを手作りする基本設計と比率
まず押さえるべきは糖質濃度(4〜8%)とナトリウム量の関係です。濃すぎれば胃の出口が遅れ、薄すぎればエネルギーも電解質も不足します。理想は運動強度・気温・発汗量に応じて範囲内で寄せること。ここでは1Lを基準に、台所の計量で再現できる配合へ落とし込みます。
目的別に濃度を決める考え方
短時間や軽い運動では糖質4〜5%(砂糖40〜50g/L)が飲みやすく、胃も軽い傾向です。60分超や暑熱では5〜7%(砂糖50〜70g/L)に上げても吸収と補給のバランスが取りやすくなります。大会など高強度でエネルギーを優先するときは7〜8%も選択肢ですが、同時に水も携行し、喉の重さが出たら薄めて調整します。
塩分とナトリウムの換算のコツ
食塩1gには約393mgのナトリウムが含まれます。一般的なスポーツドリンクの指標はナトリウム40〜80mg/100mL程度で、1Lなら400〜800mg(食塩約1.0〜2.0g)に相当します。汗の量が多い日は食塩1.5g/L前後まで上げ、涼しい日は0.5〜1.0g/Lでも十分です。塩辛さを感じたら入れ過ぎの合図。舌の違和感は有用なセンサーです。
酸味とクエン酸の役割
酸味は甘さの単調さを打ち消して飲み続けやすさを高めます。レモン汁や果汁(10〜30mL/L)が扱いやすく、クエン酸小さじ1/2(約2g)程度を補うと爽快感が出ます。胃が敏感な人は量を半分にし、柑橘の皮由来の苦味を避けるため果肉中心を使います。酸が強いと金属ボトルが変色するため、材質にも注意しましょう。
甘味源の選択:砂糖・はちみつ・マルトデキストリン
グラニュー糖は溶けやすく味が安定。上白糖はわずかな風味が残ります。はちみつはフルクトースが多く、同重量でやや甘く感じますが、粘度のせいで計量がブレやすいので重量基準で管理します。マルトデキストリンは浸透圧の上がりにくさが利点で、高濃度でも胃に軽い傾向があります。目的に合わせて混合すると口当たりが整います。
小分け調合の基本ステップ
ステップ1 ボトルにぬるま湯を少量入れ、砂糖と塩を完全に溶かす。
ステップ2 水を線の7分目まで足し、酸味と香りを入れて軽く攪拌。
ステップ3 目盛りまで水を足し、味見して±5g単位で調整する。
Q. 塩を入れるとまずく感じるのは?
A. 口が甘さに慣れていると違和感が強く出ます。砂糖を5g足すと角が取れることがあります。
Q. クエン酸は必須?
A. なくても可。レモンや果汁で代替できます。歯がしみる人は量を控えめに。
Q. ミネラルの追加は?
A. 通常は不要。脚つりが続く人はナトリウム濃度の見直しが先決です。
- 砂糖は5g刻み、塩は0.2g刻みで微調整
- 酸味は果汁10mLから開始して好みに寄せる
- 初回は薄めに作り、喉の重さで増減
- 長時間は水も携行し交互に飲む
- 冷やし過ぎると甘味を弱く感じる
比率は糖4〜8%・塩0.5〜1.5g/Lが出発点です。甘さ・塩気・酸味の三角形を小刻みに調整し、体調と気象に合わせて寄せるのが、手作り最大の利点です。
状況別レシピと作り分けの実例
同じ1Lでも、気温・時間・負荷で最適解は変わります。ここでは台所の秤だけで再現できる配合を、目的別に並べました。数値はガイドであり、最終的には自分の喉と胃のサインが正解です。初回は薄め、体感で上げるのが安全です。
| 用途 | 1L配合 | 糖質% | Na目安/100mL | 酸味 |
|---|---|---|---|---|
| 軽い運動 | 砂糖45g 塩0.6g 水1L | 4.5% | 24mg | レモン10mL |
| 暑熱60分+ | 砂糖60g 塩1.2g 水1L | 6.0% | 47mg | レモン20mL |
| 長距離ラン | 砂糖70g 塩1.5g 水1L | 7.0% | 59mg | クエン酸1g |
| 回復寄り | はちみつ60g 塩1.0g 水1L | 6.0% | 39mg | 果汁30mL |
| 子ども向け | 砂糖35g 塩0.5g 水1L | 3.5% | 20mg | 果汁20mL |
注意:表のNa目安は食塩=NaCl換算の概算です。個人差や気象条件で必要量は変動します。濃度は喉の重さ・胃の張りで必ず微調整してください。
夏の部活や炎天下での運動
気温・湿度が高い日は発汗量が増え、塩味を弱く感じやすくなります。6%前後・塩1.0〜1.2g/Lから開始し、舌で塩気をわずかに感じる程度へ。氷を入れると甘さを弱く感じるため、砂糖は5g上乗せしてバランスを取ります。水も別携行し、口が粘る前に交互で入れ替えると胃が軽く保てます。
長時間のランや登山での使い分け
2時間を超える行動は、糖と電解質を途切れさせないことが鍵です。7%・塩1.5g/Lを基準に、携行した水で現地希釈できるよう濃い原液を別ボトルに用意する方法も有効。下りや休憩では薄め、登りや向かい風の区間で少し濃くするなど、地形と風で動的に変えると体感が安定します。
発汗が少ない日や室内トレーニング
涼しい日やエアコン下では胃の軽さを優先して4〜5%・塩0.5〜0.8g/Lへ。甘味を抑えると同時に酸味を10〜20mLで補い、飲み続けやすさを確保します。終盤のだるさが出る場合は、最後の500mLだけ5%→6%へ切り替えると脚が動きやすくなります。
糖質:炭水化物のうち吸収源となる糖。濃すぎると胃が重い。
ナトリウム:水の吸収と電気信号の伝達に関わる主要電解質。
浸透圧:濃度差で水が動く力。高すぎると吸収が遅い。
等張/低張:体液に近い濃度/それより薄い濃度のこと。
希釈:原液に水を足して濃度を下げる操作。
目的別レシピはあくまで出発点です。氷や気温で味覚は変わるため、5g刻み・0.2g刻みで現地補正できる準備が成否を分けます。
吸収の仕組みを理解して手作りの強みを引き出す
「なぜこの比率が良いのか」を知ると、当日の体調で適切に調整できます。腸は糖とナトリウムを同時に運ぶ仕組みを持ち、濃度と浸透圧が胃の通過速度を左右します。理屈が分かれば、手作りの自由度が再現性の高い武器になります。
糖とナトリウムの共輸送
小腸上部には糖とナトリウムを同時に取り込む仕組みがあり、適量のNaが存在すると水の取り込みが促進されます。糖がゼロだとエネルギー不足、Naがゼロだと吸収効率が落ちます。だからこそ「薄すぎず、濃すぎない」中庸が働くのです。薄い日でも塩をわずかに含ませる意味はここにあります。
浸透圧と胃排出の関係
胃は濃い溶液をゆっくり、小さな粒子の薄い溶液を速く送ります。糖が多すぎると胃の出口が渋滞し、横腹が痛んだり喉が重くなります。反対に薄すぎると長い運動でエネルギーが途切れます。6%前後は多くの人でバランスが取れやすく、汗の多い日は電解質を少しだけ持ち上げると体感が安定します。
市販品と手作りの比較観点
メリット
好みと体調で濃度を即調整でき、砂糖の種類や酸味を選べる。コストも低い。
デメリット
衛生と計量の精度を自分で担保する必要がある。作り置きは非推奨。
- 6%は飲みやすさと吸収のバランスがとりやすい
- Naは40〜80mg/100mLが目安。汗が多い日は上限寄り
- 胃が重いときは糖を5%へ下げて水と交互に
コラム:マラソン後半の「甘さ疲れ」は味覚の単調化が一因です。レモンや塩の輪郭をわずかに立てるだけで、同じ濃度でも飲み進めやすさが変わります。競技の合間に口をゆすぐ時間を作るのも効果的でした。
吸収の鍵は共輸送と浸透圧です。理屈を知れば、当日の気温や体調に合わせて「少し薄く・少し塩を上げる」判断が自信を持ってできるようになります。
衛生管理と保存のルール
味と安全は容器と温度管理で決まります。家庭の台所では専門設備がないため、基本は当日調製・当日消費です。ボトルは中性洗剤で洗い、熱湯は材質が許す範囲で。作業前後の手洗いと器具の乾燥が、風味の劣化とリスクを大きく下げます。
当日の運用フロー
- 出発2時間前に本数と配合を決め、材料を量り置きする
- 出発1時間前に調合し、冷蔵で温度を下げる
- 持ち出し時は保冷バッグと氷で温度を維持する
- 飲み口は共有しない。直飲み後は口を軽く水で流す
- 残量は日陰保管し、直射を避ける
- 帰宅後は即廃棄し、容器を分解洗浄する
- キャップやパッキンは別洗いし、完全乾燥させる
- においが残る場合は重曹水で漬け置き後に再洗浄
作り置きの可否と冷蔵保存
糖と水と常温は微生物にとって好条件です。冷蔵でも風味が落ちるため前夜の作り置きは推奨しません。どうしても前日に準備する場合は、濃い原液(糖と塩)だけを冷蔵し、当日に冷水で希釈して仕上げます。果汁は当日に加えると香りが立ち、酸の金属反応も避けやすくなります。
ボトルと器具の衛生基準
広口ボトルは洗いやすく乾きやすい点で有利です。ブラシはスポンジと柄の両方を用意し、パッキン溝は綿棒で。食洗機は高温で樹脂の劣化が進む場合があるため、耐熱表示を確認します。においが取れない場合は熱湯を避け、クエン酸水で中和→重曹水で再洗浄の順が安全です。
失敗1
前夜に果汁入りで作り置きして酸味と香りが劣化。回避:原液と水を別にし当日で合体。
失敗2
直射下に放置してぬるくなり甘さがくどく感じた。回避:氷と保冷バッグで温度維持。
失敗3
パッキンの洗い忘れで雑味。回避:分解洗浄と完全乾燥を習慣化。
・当日調製当日消費が原則
・前夜は原液のみ可。果汁は当日追加
・直射と高温は風味と安全の最大の敵
衛生の肝は温度・時間・器具です。作り置きは避け、分解洗浄と完全乾燥をルーティン化すれば、風味も安全も両立できます。
アスリートと子どもへの応用、持病への配慮
同じレシピでも、体格や目的、健康状態で適量は変わります。ここでは子ども・持病・競技特性の3視点から、濃度と量の考え方を具体化します。安全側へ寄せ、体感で段階的に調整しましょう。
子ども向けの薄め配合
小学生は胃容量が小さく、甘さにも敏感です。糖質3〜4%・塩0.5〜0.8g/Lを上限とし、250mL程度を休憩ごとに小分けで。味が濃いと水しか飲まなくなることがあるため、酸味で飲み続けやすさを整えます。部活では保護者が材料を共有し、当日中の廃棄を徹底すると安心です。
減塩・高血圧・腎疾患などの配慮
治療中や指示を受けている人は医療者の指示を最優先にしてください。一般向け目安は参考に留め、塩の上限を下げて水を併用する運用が安全です。むくみや体重増が出る場合は量と濃度を見直し、必要なら市販の低ナトリウム製品を選ぶ選択肢も考えます。迷ったら医療者に相談を。
ジェルや固形食との組み合わせ
補給食を併用する日は、飲み物は低張(4〜5%)にすると胃が軽く保ちやすいです。ジェルの直後は数分おいてから飲む、または水で一度流してから飲むと、甘さの渋滞を避けられます。塩タブレットを併用する場合はドリンクの塩を減らし、総量で管理します。
- 子どもは3〜4%を上限、量は小分けで
- 持病がある場合は医療者の指示を最優先
- 補給食のある日はドリンクを薄めに
- 塩タブ併用時は総ナトリウム量で管理
- 違和感が出たら即座に薄める・休む
真夏のサッカー合宿で、子どもは濃い甘さを嫌がりました。砂糖を5g減らし果汁を増やすと飲む量が増え、午後の集中力も落ちにくくなりました。濃度を“飲んでくれる味”に合わせる大切さを実感しました。
ステップ1 まず薄めで作り、飲む量が増えるか確認する。
ステップ2 途中で疲労感が強いなら5g単位で糖を上げる。
ステップ3 塩タブやジェルに合わせて総量を調整する。
年代・競技・健康状態で最適解は違います。合言葉は薄め開始・小分け・総量管理。体調のサインを最優先に、段階的に合わせましょう。
よくある疑問への回答と微調整のコツ
台所での微調整はささやかな工夫の積み重ねです。よくある疑問にまとめて答え、今日からの実践に結びつけます。判断が難しいときは薄める・休む・水で割るの三択で安全側に寄せましょう。
レモン以外のフレーバーは?
グレープフルーツやライムは香りの切れが良く、長時間でも飽きが来にくいです。ベリー系は香りが強く、運動中は好みが分かれます。ミントは清涼感が出ますが、入れ過ぎると胃が冷えやすい人も。粉末フレーバーは微量の甘味を含むことがあるため、糖の総量へカウントしましょう。
砂糖以外の糖源の選び方は?
はちみつは風味の満足度が高い反面、季節で粘度が変わり計量ブレが起きやすい。マルトデキストリンは浸透圧の上がりにくさが長所で、7〜8%でも胃が軽いと感じる人がいます。フルクトースを多くするとGIは下がりますが、胃腸が敏感な人は腹部不快が出るため、まずは砂糖中心が無難です。
カフェインやクエン酸の追加は?
カフェインは覚醒感を与えますが、心拍上昇や利尿の体感が出る人もいます。まずは少量のコーヒーやジェル側で試し、ドリンク本体には入れないのが安全です。クエン酸は飲み続けやすさには有効ですが、歯のエナメルに配慮して濃度は控えめ、摂取後は水で口をゆすぐと安心です。
Q. 塩味が分からないときは?
A. 汗で味覚が鈍ることがあります。水と交互に飲み、翌回は0.2gだけ増やしてみます。
Q. 胃が張るときは?
A. 糖を5%へ下げ、量を小分けに。酸味を少し強めると飲み進めやすくなります。
Q. しょっぱさが苦手です。
A. レモンを10mL足すと塩角が丸くなります。氷で冷やし過ぎは甘味が鈍る点に注意。
注意:脱水や熱中症の疑いがあるとき、嘔吐・下痢を伴うとき、乳幼児や高齢者の体調不良時は、医療者の指示や経口補水液の使用を優先してください。本稿は一般的な運動時の補水の目安です。
・糖5〜6%は多くの人で“軽さと補給”の折衷点
・Na40〜80mg/100mLの範囲で体感に寄せる
・現地は水で割れるよう原液を準備すると安心
疑問の多くは濃度と量の微調整で解けます。迷ったら水で割る、少し休む、次回は5g刻みで調整。安全側への寄せが継続の鍵です。
まとめ
スポーツドリンク 手作りの核は、糖質4〜8%と食塩0.5〜1.5g/Lの範囲で、その日の気温・強度・体調へ寄せることです。
味は現地で変わります。氷や温度で甘味の感じ方が動くため、砂糖は5g刻み、塩は0.2g刻みで調整できる余地を確保しましょう。衛生は当日調製・当日消費が原則で、容器は分解洗浄・完全乾燥が基本です。子どもや持病がある方は安全側に寄せ、水や経口補水液と使い分けます。自分の体のサインを指標に、台所で再現できる比率から始めれば、吸収と飲みやすさの両立が手に入ります。

